心せよ春の風邪には非ざりし 隆世(主宰)4月の特選 花筏いきどころなくたむろせり 公昭
水に散り敷いた落花が連なって筏のように見えるところから近年「花筏」という季語を「花」という季題の傍題として好んで用いられるようになった。
従来、俳句の聖典とされる「虚子編新歳時記」には「花筏」は採用されていない。また、それを引き継いだ稲畑汀子も「落花」という季題がある以上「花筏」を季題とすることは無用と明言している。他に飯田龍太や金子兜太等が監修している講談社の「新日本大歳時記」では「花筏」を季語の一つとして認めてはいるが、それは「落花の連なり」としてではなく、ミズキ科の落葉低木の淡緑色の花が葉に乘る有様が筏に似ている処からそう名付けられたものであるとしている。何れにせよ「花筏」は、今以て未成熟な季題と言えよう。
この句は城濠のようなところで落花が散り敷き、筏のように連なって密集しつつあるさまを「いきどころなくたむろしている」と詠嘆したものであるが、その押し犇めく圧迫感から都会に生きる人間の息苦しさのようなものまで感じさせる力がある。そのような現代感覚で「花筏」という新季題を捉えた良き一例としてここに取り上げた訳である。 (主宰 学部7回 中杉 隆世 記)
次回の句会は令和2年5月21日(木)
お問い合わせ:淡水事務局(078‐795−1020) 西村ひとみ(学部33回)迄
学部28回 高嶋 鵆 記